文学アクセサリー『空のうたたね』

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ハスメール

制作:Paody
絵:Paody
文章:Paody
Silver925
ハスメール
 
少女は、まだ あどけなさが残っていた。
 
彼女は家に帰らない日がたびたびあった。
笑顔を見せたと思えば、突然、沈黙し、誰かを恨んでいるような目をしたと思えば、
 
次の瞬間、甘えた様子を見せた。

彼女はよく「大人は みんな汚い」と吐き捨てたように言っていた。
 
そして、不幸にも家族を恨んでいた。
谷間のような どうしようもない裂け目が開いている。
 
当てもなく彼女は、一人で鎌倉の海に行った。
海と男女のたわむれる声が入りまじり、生きているのかさえわからないほど、客観的に傍観していた。
帰りの途中、彼女は疲れ果て、ベンチに座って動けなくなっていた。
皮肉にも 疲労した足の重みで、自分が存在していたことを思い出させる・・・
 

すると、向かいの花屋のおじさんが、大きな一輪のハスの花を、彼女に手渡し、
 
脈絡もなく、話し始めた。
 
 
 
“ハスはね。ヘドロから生まれてくるんだ。”
“池がドロドロであれば、あるほど、ハスはきれいな花を咲かせるんだ!”
 
”どうだい?人のようだろう?”
“人も、苦しいことや悲しいこと、辛いことを体験した人こそ、
 
きれいな花を咲かすことができるんだ。”
“だから、お譲ちゃん。落ち込んでいないで、元気出して、歩いてゆこうよ。”
 
彼女は驚いて(なんで・・・あたしを知っているの?)と、心が熱くなるのを感じた。
枯れていた目から、気がつけば、涙があふれていた。
 
***
 
 
 
次の日、僕のもとに、彼女から長いメールが入っていた。

 
メールの最後にこう書いてあった。

 
“あたし、ヘドロを持っていくよ。”
 
“だって、きれいな花を咲かせたいもん!”
“もう、心配しないでね。”
 
“大丈夫だから。”
 
 
 

少女からのメール

私は汚れている・・・


自然が先生になってくれることがある。些細な言葉で人の心は変わることがある。
 
展示歴 2019/9 (大阪) 2016/2(第21回日本の美術) 2014/4(カフェ) 2014/1(渋谷)

ラベル

LinkIcon 緑ラベル:物語や戯曲を基に
LinkIcon 赤ラベル:歌や詩を基に
LinkIcon 青ラベル:哲学や思想を基に
LinkIcon 黄ラベル:歴史や考古学を基に
LinkIcon 黒ラベル:Paodyによる
LinkIcon コラボ
ラベルとは・・・ 空のうたたねは、色々な原作をもとに、作品作りをしています。そこで、作品のジャンルによって、色分けをした印です。