文学アクセサリー『空のうたたね』

LinkIcon ゼンマイ ~司馬遷『史記・伯夷列伝』より~

制作:Paody
絵:Paody
文章:Paody
24KGP
原作:司馬遷『史記・伯夷列伝』

奥深い山の中。
 
ぶるぶる震えて過ごす薄汚れた二人。
 
ガリガリに痩せて、喉から空気が漏れるような微かな声。
 
「もういいよ」
 
「まだ、あと少し・・・」
「だって、もう春じゃないか」
 
日の光が、緩やかで
 
目の前に、金色のゼンマイが、生えていた。
 
「そうか・・・もう春なのか」
 
腰をかがめると、美しい翡翠の璧が揺れていた。
 
この至宝だけが、この兄弟が王子であったことの印。
 
この山の中では、翡翠の璧は、なんの価値もない。
 
むしろ、このゼンマイの方が、美しく輝いていた。
 
二人は、ゼンマイを分け合って、口に入れる。
 
そして
 
安心したように、静かに、冷たくなってゆく。
 
二人の遺体が、土に帰る時、
 
次の生のゼンマイが巻かれた。

史記・伯夷列伝

原作:司馬遷(B.C145年?~B.C87年?)


 
先日、水戸の偕楽園へ行ってまいりました。
近くの千波池を、レンタサイクルを借りて、今回のテーマである 徳川光圀の文化保護について考えながら、ペダルをこいでいました。
 
徳川光圀は、幕府の修史事業として編纂された『本朝通鑑』を見て、激怒したと伝えられています。それは、天皇の祖先が、中国由来であるという記述に対してであったと言います。
根拠のない事実を、あたかも真実のように記されては、後世に大きな傷跡を残すだろう。また、それが幕府や林羅山という権威が、関与しているなら、なおさらの事です。
徳川光圀が、この歴史の編纂を、任せられないと思ったのも無理はないと思います。
また、徳川光圀は、文化財保護に重大な意味を自覚していました。それは、司馬遷の『史記・伯夷列伝』を読み、心のわだかまりを 解くことができ、前に進むことができたという個人的な体験から、そう確信していたのでしょう。歴史というのは、現在に生きるものへの指針になってくれることがあると思います。
 
僕は自転車に乗りながら、ふと思いました。
今、乗っている自転車の形についてです。
(なぜ、この乗り物は、またがるように乗るのだろう?)
(まるで、馬のようではないか。)
もし、人間が利用した乗り物が、せんべいのような円盤型の動物だったら、きっと、自転車も円盤型になっているのだろうなって思いました。なぜなら、ほとんどの思考は、過去を利用しているにすぎないからです。
そんなことを考えていると、僕は、自分の頭で考えていない  ブリキのオモチャのように感じるのです。
過去が、僕の背中についているゼンマイを巻き上げてくれるから、僕は動いている。思考を支える言葉さえも、過去のゼンマイです。
だから、僕にとって、文化財とは、人を動かすゼンマイのように 感じるのです。
 
展示歴 2022/8(アートパレつくば)

ラベル

LinkIcon 緑ラベル:物語や戯曲を基に
LinkIcon 赤ラベル:歌や詩を基に
LinkIcon 青ラベル:哲学や思想を基に
LinkIcon 黄ラベル:歴史や考古学を基に
LinkIcon 黒ラベル:Paodyによる
LinkIcon コラボ
ラベルとは・・・ 空のうたたねは、色々な原作をもとに、作品作りをしています。そこで、作品のジャンルによって、色分けをした印です。