グレンデルの腕 ~「ベーオウルフ」(中世イギリス英雄叙事詩)より~


制作:Paody
絵:Paody
文章:Paody
Brass
原作:ベーオウルフ(中世イギリス英雄叙事詩 )

英雄ベーオウルフは肩で息をしていた。
戦いは、一時終わったのだ。
怪物グレンデルは、沼の奥深くへ、滑っていくように逃げていった。
一瞬の沈黙の後に、堰を切ったように、人々はどよめいた。
(勝ったのだ・・・我々は勝ったのだ・・・)
ただ、ベーオウルフだけは、笑ってはいなかった。
グレンデルの腕は、ベーオウルフによってもぎとられ、地面に寝そべっている。
人々は、おぞましい腕を取り囲むように、勝利の歓喜をあげていた。
ただ、遠い眼差しで、ベーオウルフだけは、知っていた。
グレンデルの腕から自分の身体を探すように、魔力の残像がさまよっていた。
次の朝、戦勝記念として吊るされたグレンデルの腕は姿を変えていた。
それは、水中を泳ぎ回るための水かきのようで、水かきとしては役に立たず、空中を飛び回るための羽のようで、羽としては役に立たない。
鴨の足というべきか・・・コウモリの羽というべきか・・・
見たこともない奇妙な腕が、ぶら下がっていた。
腕に宿っていた魔力は、グレンデルの本体へと帰っていったのだ。
しかし、魔力のせいで、人々はこの変化にさえ気がつないでいた。
ただ、ベーオウルフだけが、魔力の帰る先を見つめていた。
ラベル
ラベルとは・・・ 空のうたたねは、色々な原作をもとに、作品作りをしています。そこで、作品のジャンルによって、色分けをした印です。